- 農業男子 vol.11 -
十勝が育んだ熱血農業紳士!
その情熱、もはや真夏の太陽級!
日本の農業界のエースを直撃! 編
「この野菜ってなんで美味しいの?」
きっかけはお客さんのそんな一言。
「今まで自分たちの野菜が《なぜ美味しいのか》、なんて考えたことも無かったので本当、衝撃的でした」
そう話すのは農業王国、十勝は芽室町の農業紳士。
ショッピングセンターで初めて直接販売にチャンレンジした時の出来事だ。
「美味しいってなんだろう。安心ってなんだろう。安全ってなんだろう。どうしたら伝わるんだろう。とことん、考えました。」
2007年、農業グループ《なまら十勝野》を立ち上げた。
最初は4軒だった所属農家も、今では15軒に。
去年株式会社化し、代表取締役に就任した。
「やるって決めたから、やりきるのみ」
情熱溢れる農業紳士。大きな北海道で、大きな可能性を持つ紳士に密着した。
■このままで、いいの?
突き抜けるような真っ青な空に、青々とした緑の畑。
澄み切った空気。深呼吸しているだけでとても気持ちがいい。
“ほっかいどうは、でっかいど~!!!”
思わず声にしたくなる大きな大地。
北海道は芽室町。スイートコーンの生産量日本一を誇る、農業が盛んな地域だ。
「今年もいいスイートコーンが出来ましたよ」
爽やかな笑顔で迎えてくれたのは農業紳士・小山勉さん。
株式会社なまら十勝野の代表として【なまら十勝野ブランド】を精力的に発信している。
北海道弁で“とても”を意味する“なまら”と十勝平野の“十勝”、それに野菜の“野”を組み合わせて《なまら十勝野》。
肥沃な十勝平野で育ったとっても美味しい野菜を届けたい―――
そんな意味が込められている。
――――そもそも《なまら十勝野》を立ち上げたきっかけは?
「馬鈴しょの市場価格が大暴落したことがあって。2年くらい苦しい時期を過ごしました。その時に、自分って農家として自立出来てるのかなって思い始めて」
――――“自立”ですか?
「市場に出荷することで安定した収益は得られる。でも市場価格や農業政策が変わるだけで農家の基盤って揺らいでしまうんです。そんな状態でいいのか、外部に頼っているだけでいいのか。本当の意味での“自立”を考えましたね」
“このままでいいのか?”
そんな危機感から“経営”を学んだ。各地の農家を視察に行き、イベント出店やギフト販売、
飲食店との取引を始めるなどとにかく行動した。
「このままじゃ駄目だ、なんとかしなくちゃいけない。そんな同じ思いを持つ農家で《なまら十勝野》を結成したんです」
“今”が良くても、ずっといいわけじゃない。
変化し続けることは進化し続けること。
“自立した農家”への歩みが始まった。
■野菜の、農業の《安心・安全・美味しい》って一体、なんだ?メンバー全員でつくった“美味しい”野菜の基準
「お客さんに“なんでこの野菜美味しいの?”って聞かれて“一生懸命作ったから”としか答えられなかったんですよね」
初めて直接販売にチャレンジした時のこの出来事は
それまで市場出荷のみだった小山さんにとって大きなターニングポイントとなった。
「自分の野菜の価値を知るきっかけになったし、“美味しい”って何だろうって真剣に考えるきっかけにもなった。生産性を上げるだけじゃない、美味しさも追求する農業にシフトしようって」
なまら十勝野が大切にしていることは“なぜ”を突き詰めることだ。
「安心で安全で美味しいことは当たり前にしようと決めて。じゃあその基準は何にするのか。特に“美味しい”はみんな違う。そこをどうするのか。メンバーととことん話し合いました」
“安全”のためにJGAP(食と環境の保全に取り組む農場に与えられる認証)をメンバー全員が取得すること。
自分たちに出来ることをとにかく考えた。
―――“美味しい”は人それぞれだから、難しいですよね。
「“美味しさ”の基準にしたのは《栄養価が高くて健康な野菜であること》。土壌が健康であれば野菜は美味しく育つ、だから土づくりは特に大切にしてますね。次世代にも受け継ぎたいから土壌消毒はしません」
とことん話し合うのは野菜の基準だけではない。
何かをやる時には全てミッションを決め“何のために”を見える化する。
「ひとつひとつを落とし込むのって本当に疲れるし大変です(笑)悩むし、時間もかかる。でも勢いだけだと続かない。迷った時に決められなくなる。だからミッションが必要なんです」
ひとつひとつ、自分たちでやる意味を考える。
だから、《なまら十勝野》の結束力は強いのだ。
■とにかく、やりきるんだ!!農家が変わることで初めて受け手が変わる。
「一番大切にしているのは理念です」
※ 写真提供:なまら十勝野HP
「日々の作業に追われていると大切なことって忘れてしまう。“だってしょうがないじゃん”“こっちの方が簡単だし”とか言い訳して。でもそうするとブランドなんて作れない。だから、初心に戻れる理念が必要なんです」
―――そこまでとことん!出来るのは?
「農家が変わることで初めて“農家ってこうなんだ”って受け手が変わる。そのためには自分たちがやりきらないといけないんです。あれもありなんだなって思ってもらえるくらいに」
―――今、目指していることは。
「今は15軒のなまら十勝野だけど、ブランド力をもっともっと上げていって自分が65歳になるまでに200軒にする。農業そのものの角度を1度でも変えるために、やります」
「“出来ない”って言わないですね。どうやったら出来るか。出来ないなりに、何が出来るか、ってね(笑)そしてやると決めたら、やりきるのみです」
柔らかい笑顔からも伝わってくる並々ならぬ情熱。
腹を決めた人は、清々しい。
そして、潔い。
十勝の農業紳士の情熱が日本の農業界に届く日は、そう遠くないのかもしれない。
☆なまら十勝野の情報はこちらでチェック☆
https://namaratokachiyashop.secure.force.com/
◆次回は、名越涼子の農業レポート!
え?M-1グランプリ?! 北海道・芽室町の食で町おこしを緊急取材!
(取材・文・撮影・イラスト 名越涼子)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。