- 農業男子 vol.5 -
見える農家から“会える農家”へ!
ニューヨーク帰りの農業男子がつくる、東京農業の、今。編

 

東京で、農業。

正直、イメージがわかないという人も多いだろう。

 

しかし“あえて”東京で農業を始めた農業男子がいるという。

東京の中心街から電車にゆられること1時間。

 

都会の喧騒が嘘みたいなのどかな場所に、その農場はあった。


東京・青梅にある【T.Y.FARM】

2.5haの畑でケール・ルッコラ・パクチーなど年間40~50種類の野菜が栽培されている。

野菜が実り、花が咲き、蝶が舞う畑。

「ここは東京なのか・・??」と疑ってしまうほどゆったりとした時間が流れている。

穏やかな空気に身を委ねていると、その農業男子が現れた。

 

 

■あえて、東京で農業をする

「イメージはニューヨークです。ニューヨークって大都会なんですけど、実はちょっと外に出たら畑が広がっていて。ニューヨークって農業が遠いようで近い。だから地元の野菜もたくさん食べられるんですよ。」

 

爽やかな笑顔を見せる、野中さん。


「ニューヨークで出来るなら、東京で農業をやるって面白いんじゃないのかなって。

農業の存在を身近にしたいんです。物理的な距離でも。僕らの目指すのは“見える農家”の上をいく、“会える農家”なんです(笑)」

 

“見える農家”から、“会える農家”へ。

 

今回も面白い取材になりそうだ。

期待とときめきで胸をきゅんきゅんさせながら、話を聞いた。

 

■お寺とファッションと、ニューヨークと

農家になって3年目の野中さん。

野菜を栽培しながらレストランと交渉し、シェフの要望を畑でどう実現させるかを計画するオペレーションマネージャーとして毎日精力的に動き回っている。


そんな野中さんは、異色な経歴の持ち主だ。

 

「実家が東京にあるお寺なんです。その影響なのか、鋳物・・鐘とか鈴ですね。日本の伝統工芸に興味があって。それでもっと勉強したいって思ってニューヨークに行ったんです」

 

――――ニューヨークですか?

「ニューヨークに行く前にファッションのPR会社でも働いていたんですけど、ファッションや伝統工芸・・・そういった日本のプロダクトが世界でどう見られているのかを知りたくなって。」


日本のプロダクトの見え方・見せ方。

ニューヨークという世界の最先端をいく場所を選択したのにはこんな思いがあった。

 

「伝統工芸とお寺の現状、外からの見え方って似ているんです。作り手が高齢化していて斜陽産業。古い、ダサい。それは農業も一緒ですよね。じゃあ、どう見せたらいいのか。ニューヨークではそうしたPRの勉強もしていました」

 

ニューヨークから帰ってきた野中さんに、運命のひと声がかかる。

“飲食の立ち上げをやらないか”

それがT.Y.FARMの始まりだった。

 


■会える農家、だからこそ

T.Y.FARMの今の代表から声がかかり、二つ返事で立ち上げに参加した野中さん。

「代表とはもともと知り合いで。いつか一緒に仕事をしたいなって思っていたんです」

――――最初から農業をしよう、と決まっていたのですか?

「新規事業の立ち上げだったので、さぁ飲食で何をやる?というゼロからのスタートです(笑)だからこそ、10年後も飲食で生き残るためにはどうしたらよいのか、代表と何度も話し合いを重ねました」

 

 

「長く使ってもらえるもの、本当にいいものって愛される理由があるんです。見せかけだけのものは衰退していく。素材や本質のところを大事にしたいね、って話していて」

 

ファッションや伝統工芸の勉強で学んだことである。

 

「飲食における素材って言ったら、野菜でしょう、と。誰かに任せるのもいいけど本質を理解するには自分たちでやらないとわからない。じゃあもう自分たちで農業しよう!って」

 

2015年、T.Y.FARMがスタート。

“本来の姿を取り戻したい”と在来種・固定種の野菜のほか、

種が江戸時代から変わらないという江戸東京野菜も有機農法で栽培している。

 

「ナスとネギを一緒に植えて土の消毒をしたり、イネ科の背の高いもので天然の網戸を作ったり。手間はかかるけど、肥料はなくても野菜は育ちます」

 

 

「有機農法だと野菜の大きさがまちまちなんです。でもこれが僕らの農業のスタイル。どんな風に作っているのか畑に見に来てください、って地道に説明を続けていたら出来たサイズで使ってくれるレストランが増えていって」

 

自分たちの農業を直接伝えていく。

そこにも“会える農家”の意味があるようだ。

■町が変わる。農業で変わる。

野中さんたちの展開はものすごいスピードだ。

今年4月には、T.Y.FARMの野菜を食べられる「NOZ BY T.Y.FARM」がオープン。

 

 

「流行りのファッションのような“オーガニック”にしたくないから、あえてそこはうたってません。オーガニックは当たり前のことにしたいんです。食べて美味しいって感じてもらってからT.Y.FARMのこと、オーガニックのことに気付いてもらえれば」

 

自分たちの農業をどう見せるのか。どう伝えるのか。

野中さんのこれまでの経験が生かされる場でもある。

 

 

そもそも農業と全く縁の無かった野中さんが農家を続けられる理由はなんだろうか。

 

「この活動を続けていったら、まず青梅っていう町が変わると思ってる。

僕たちが地域のコミュニティーに属する。若い血が入って、町が活気づく。そうすると、自然とこっちに目が向いてきて何か面白そうなことが起こりそうだなって感じるんです」

 

 

「周りの反応、野菜作りの技術、集まってくる人がどんどん変化していて

T.Y.FARMの持っているエネルギーもどんどん大きくなってる。それが町の人に、消費者にどう影響していくんだろう。どんなコラボレーションがうまれるんだろう。

その可能性を見てみたいんです」

 

果てしない可能性に胸をときめかせる、野中さん。

そのわくわくエネルギーを持つ野中さんこそ、みんなの希望の発信源だ。

 

 

☆野中さんの情報はこちらでチェック☆

https://www.tyfarm.jp/

☆NOZ BY T.Y. FARMの情報はこちらでチェック☆

https://www.nozbytyfarm.jp/

 

(取材・文・撮影・イラスト 名越涼子)

 

次回は、田植えでモヒカン体験?!農業の価値をデザインで生み出す

インテリ・イケメン農業男子が登場!お楽しみに~♪

 

 


名越涼子(なごし・りょうこ)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。