元パティシエの織り成す、日本一美しい梨園。
すべての可能性を調理する農業男子の、芸術的発想に迫る!編
【日本一美しい梨園】といっても過言ではないだろう。
タテ・ヨコ・ナナメどこから見ても完璧である。
「この梨園はケーキ屋さんのショーケースと同じ。ケーキって一つ一つ手作りだけど、どれも同じように美しく芸術的に作られていますよね。そのイメージをこの梨園で表現したかったんです。」
そう話しながら颯爽と現れた、パティシエ姿の農業男子。
「パティシエだったのはもう何年も前のことなので、コスプレみたいになってませんか?(笑)」
照れくさそうに笑う姿に、早くも萌え。(*∩´∀`)∩
元パティシエの農業男子・實川勝之さん。
その美意識の高さ、発想の源流はどこにあるのか。
話を聞いた。
◆出荷するほど赤字になる・・こんな農業は、嫌だ
専門学校を卒業し、県内のケーキ店へ就職。
「職人に憧れていたんです。腕一本でのし上がれる世界への憧れがあって。」
パティシエとしてケーキ店に勤めていた實川さんが実家に戻ったのは21歳の時。
父親のケガがきっかけだった。
「落ち着いたらケーキ屋さんに戻ろうと思っていたんですけど、農業面白いなって改めて感じて。ゼロからモノを生み出す過程ってとてもやりごたえがあるんです。」
実家に戻ったその年、實川さんは驚くべき光景を目にする。
「大根を作っていたんですけど引っこ抜いて捨てる、という事態になったんです。
出荷するほど赤字になってしまって。せっかくコストも労力もかけたのに消費者に届けられない・・やるせなかったですし、こんな農業はやりたくないって思いました。」
「じゃあ、自分が自信を持って作ったものを消費者に届けられる形はなんだろうって考えて。それが、直売だなって思ったんです」
千葉県は梨の生産量日本一。早速、梨園を作ろうと決めた。
自分のやりたい農業スタイルを実現させるためだった。
◆“美しい”は“美味しい”
平成23年、【株式会社アグリスリー】を設立。
アグリカルチャーとパティスリーを組み合わせて会社名にした。
パティシエとして培った経験は会社経営の中でも生きている。
「パティシエのイメージって一番は清潔感だと思うんです。当時、上司からもコックスーツを汚すのは腕がわるい証拠だと教わっていましたしね。だから会社でも“清潔感”をとても大切にしています。」
――――清潔感、ですか?
「農業ってそこと対極だと思うんです。昔、教科書で3K(きつい・きたない・きけん)を習った時に農業が入っていたんですね。そんな農業のイメージを変えたくて。誰だって綺麗なところで働きたいし、出来上がった作物が良くても裏側はぐちゃぐちゃだなんて、嫌じゃないですか。」
畑仕事は土ぼこりにまみれること必至。農園や作業場を綺麗に保てるのは丁寧な仕事の表れである。
「整理整頓するといいことがたくさんあります。例えば梨園だってピチっと揃えるからこそ、風通しが良く光もちゃんとあたる。だから作物もすくすく育つんです」
そうしたきめ細かい心配りが美味しさに繋がっているようだ。
◆農業の選択肢は、ひとつじゃない
「農業のスタイルは、生産だけじゃないと思うんです」
アグリスリーでは生産にとどまらず、加工・営業・広報など幅広く“部門”を設けている。
梨の直売と観光を兼ねた農園に、お米や野菜の生産。そして現在はカフェ・キッチンLABOを建設中だ。
「例えばカフェでとびっきり美味しいコーヒーを淹れられる農家がいてもいいと思うんですよ。ものすごく営業上手な農家がいてもいいし、機械に乗らせたらこの人には敵わない、という農家がいてもいいと思う。大切なのは、農業というものに幅を持たせることです。」
――――幅を持たせる、というのは??
「生産だけに特化していると土作りが嫌だ、日焼けしたくない、と言われたらおしまい。農家の減少と高齢化はこうした選択肢の狭さが関係していると思うんです。だからこそ、企業にする事で選択肢が広がるかなって」
「基本的には農業を憧れの職業にしたいって思いがあります。なりたい職業の選択肢に農業が当然のように入るようにしていきたい。得意・不得意はみんなで補い合えばいい。チームみんなで“百姓”になればいいと思うんです。」
農業を未来へ繋ぐカタチは、ひとつじゃなくていいのだ。
◆自分自身を突破していく
「“LABO”なので実験施設です(笑)」
加工部門となるコミュニティーCAFE・農家のキッチンLABOは今年8月に完成予定。
「千葉県って加工事業が遅れている県なんです。これまでは加工せずとも生鮮でいくらでも出荷できていた。ただ、今はどこでも数日でものが届く時代。それに加えて少子高齢化で食べる量も減ってきている。そうしたところを踏まえて今後ラボで実験していきたい。」
「ここでは地域のみんなとものづくりしたいと思っています。自社だけ、という狭い範囲で考えるのではなく地域という視点で考えたほうが面白いものが生まれると思うんです。」
現状にとどまらず、常に可能性を求めて幅広く。
そんな考えの源はどこにあるのだろうか。
「単純です(笑)料理と一緒で、材料は色々あった方が楽しいじゃないですか」
農業に、自分自身にも枠を設けない。
そんな實川さんの持つ可能性こそ、無限大だ。
☆實川勝之さんの情報はこちらでチェック☆
次回は、“見える農家”から“会える農家”へ。
江戸東京野菜を栽培するイケメン農業男子が登場!お楽しみに~♪
(文・取材・撮影・イラスト 名越涼子)
名越涼子(なごし・りょうこ)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。