- 特別編 -
決めたことはトコトンやり抜く!
陸上自衛隊出身・大人ダンディな農業紳士! 編

物事はごくごくシンプルだ。

やりたいから、やる。

決めたから、やる。

やるからには最後まで、やる。

ただ、それだけだ。

 

シンプルに生きるには“強い意志”がいる。

何かを選ぶことは、何かを捨てることだからだ。

 

そんな芯の強さを持つ男性がいると聞いてやってきたのは、静岡県浜松市・有玉。

しかもその男性は元陸上自衛隊らしい。いかにも強そうだ。どんな筋骨隆々の男性なのか。あれこれ想像を巡らせて伺うとそこで出会ったのは野菜と、畑と、そして自身と“真摯”に向き合う“農業紳士”だった。

 

 

 

◆闘う、野菜。

ある人はすずき農園の野菜のことをこう語る。

「あれは、まさに体育会系の野菜」

 

 

味も香りも野性味が溢れ

厚みがあり、歯ごたえが良く、葉物でも“闘って食べる”という。

 

 

【自分が食べたいと思える野菜を作る】をモットーに

5年前、東京から地元・浜松へ移住し新規就農。

農薬や化学肥料、除草剤などは一切使用せず、自家製たい肥を使った有機農業を実践している。

 

「思いつくものはだいたい作りましたね。50品目以上は。少量多品目なので常に種を蒔いて、常に何かを収穫しています」

 

・6haの畑でたった一人、朝から晩まで黙々と農作業をし続ける鈴木さん。
草取りも虫取りも全て手作業。聞いているだけでも途方に暮れるような作業量だ。

 

「お客さんが待ってくれていますし、美味しいねって言ってもらえると嬉しいですしね。それに自衛隊の経験を考えると“キツイ”ってレベルではないんです」

 

そう言って爽やかな笑顔を見せる鈴木さん。

元自衛隊ならではの言葉である。

 

◆3.11「物事の本質って、なんだ?」

 

――――元々“オーガニック”に興味があったのですか?

「いやいや。全くありませんでした(笑)義理の弟が長野で自然度の高い農業をやっていたんですけど“そんな農業じゃ食べていけないからやめた方がいいよ”って言っていたくらい。それはやっていない人の言葉で、今じゃ絶対に言いません(笑)」

 

そんな鈴木さんの考えを大きく変えたのは、3.11。東日本大震災だ。

 

「ちょうどその時は東京にいて。地震発生から一時間くらいでコンビニから商品が無くなっていたんですよ。モノを買おうと思っても買えない。お金があっても買えない。そんな現実を目の当たりにして。」

 

自衛隊を辞め、東京の通販会社で営業マンとして勤務していた時のことだった。

 

「大変な状況だけど会社は利益のために出社しなければいけない。都市の混乱、情報の錯綜に、問われる食の安全性・・・物事の本質って何なのかなって初めてちゃんと考えたんです」

 

 

「会社ももう違うのかな・・食べる物も自分で作るしかないのかな・・なんてあれこれ考えて」

 

そうした状況の中で鈴木さんが向かったのは、義理の弟のいる長野だった。

「もともとアウトドア好きで自然も魚も虫も大好き。根っからの自然児なんです(笑)長野の田舎の農的な暮らしを堪能して、やらないよりもやって後悔したほうがいいって強く感じて、就農を決めました」

 

鈴木さんの人生のターニングポイント。

農家としての歩みをスタートしたのである。

 

◆「諦める」ことを教えてもらった有機農業

会社を辞め、都内の農園で有機農法を学び、一人浜松へ。

「最初は道具一つからない。土もない。今なにやるの?今どの種蒔くの?とそこからスタートでした(笑)農業はそんな簡単なものではなくて場所が変わると風の吹き方、雨の降り方、虫の発生状況も変わる。常に試行錯誤です」

 

 

――――就農して5年。農家になって良かったと感じることはありますか?

「“諦める”ことを覚えた、ということですね。」

 

――――諦めること?

「ほら、人間て物事に執着しちゃうじゃないですか。こだわればこだわるほど。

でも無理なものは、無理、と。例えば雨が一週間続いたら全部根っこが腐っちゃうんです。

駄目なものは駄目。有機農業は諦めが肝心なんです」

 

 

「僕のところはかん水設備が無いので雨が降らなかったらアウト。倒れた野菜はもうしょうがない。倒れなかった強い野菜だけ生き残ってくれればいいなと。そうした野菜の種を採って翌年蒔く。一代、二代じゃ変わらないかもしれないけど少しずつ強い野菜になっていくと思うんです」

 

鈴木さんだけでなく、野菜そのものもストイック。

結果、生命力溢れる味わいが作られるのだろう。

 

 

自然の力に無理に抗わない。鈴木さんの農業スタイルだ。

 

「ただ単に作物を収獲するためだけの畑じゃなくて、目指しているのは生物多様性を育む畑。生態系を守りたいですし、生き物や自然環境と共存していける持続可能な農業にしていきたいんです」

 

自然を愛しているからこその選択と決断。

鈴木さんの言う“諦め”には未来を見据えた確かな意志がある。

 

◆愛と強さの農業紳士

 

鈴木さんの畑には、たくさんの生き物たちが訪れる。

「46億年もの歴史を持つ地球のことを考えると、人間のいる世界は本当に一瞬のこと。

生意気言っちゃいけない、と思うんです。だからこそ自然のことをベースに生き物の摂理を考えてやる。例えば、農薬の代わりに虫の習性を生かす。生き物の力を借りて農業することも出来るんです」

 

 

「自然の素晴らしさ、虫の面白さってたくさんあるんですよ!

畑を通じてそうした楽しさを子どもたちに伝えていきたい。そう思います」

 

自然を愛する心に

自衛隊で培った、“どんな状況でも決めたら、やる”という底力。

 

強さと優しさを携えて

きょうも鈴木さんは一人、畑と向き合い続ける。

 

 

 

☆すずき農園の情報はこちら☆

http://organicfarmsuzuki.wixsite.com/organic-farm-suzuki/

 

☆次回予告
次回は、元パティシエが織り成す美しき梨農園!
農業男子からのあま~い言葉と一緒にお届けします!

 

(文・取材・撮影・イラスト 名越涼子)

 


名越涼子(なごし・りょうこ)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。