- 農業男子 vol.3 -
山を守り、次世代へ繋ぐ情熱の山師!
ベビーフェイスなしいたけ農家 編
大ヒットを記録した映画「君の名は。」
名越もご多聞に漏れず観た。心を弾ませ、キュンキュンさせ、しまいには涙を流した。
あの時感じた胸の高鳴り。そしてときめき。
まさか宮崎で再びそんな気持ちになれるなんて、想像もしていなかった。
?!!!!!
き、き、きみの「なば」!!???
しいたけ栽培が盛んな地域では「しいたけ」のことを「なば」と言うらしい。
「君の名は。」・・・「君のなば。」
なんだ。なんなんだ、この衝撃。
映画を観た時と同じくらいのドキドキ感。否、それ以上かもしれない。
このセンス、ぜひ詳しく伺いたい。
宮崎駅から車を走らせることおよそ3時間。
渡川地区とよばれる山々が美しい大自然の中、その農業男子はあたたかく迎え入れてくれた。
◆そのしいたけ、感動レベル
今西猛さん。職業:山師。
山を守りながら、原木しいたけを育てている。
「作ってきましたよ~」
くしゃっと笑う今西さん。その優しい笑顔に、思わずきゅんっ。
“美味しい食べ方”は、地元の人が一番知っている。
ということで、おすすめしいたけ料理をお願いしていたのだ。
こちらは、「しいたけの南蛮」
宮崎が誇る「チキン南蛮」のしいたけバージョン!
う~ん美味しそう・・♬では、早速、いただきま~す♪
(*∩´∀`)∩!!!!!!!
口にいれた瞬間に広がるしいたけのうま味と香り。
歯ごたえが良く、肉厚でジューシー。その食感はまるで肉を食べているようである。
さらにタレの酸味がしいたけの甘みを抜群に引き出している。
これは、感動レベルの美味しさだ。
「きのこは、その名の通り“木の子”。原木栽培は木の養分だけで育つんです。だから、香りもいいし、味も濃くて美味しい」
木の養分だけで育つ、木の子。木のエネルギーに満ち溢れた、納得の美味しさである。
「ただ、あと10年もしたら国産の原木しいたけは食べられなくなるかもしれません」
笑顔だった今西さんの表情がグッと真剣になる。
日本の山で、今どんなことが起こっているのか。現状を聞いた。
◆山師には、ロマンがある。
―――――そもそも“山師”ってどんな仕事なのですか??
「木を植えて、育てて、50年後に切る仕事。
だから僕が今切っているのはおじいちゃんや親父が植えた木だったりするんですよね。
今年僕が植えた木はもしかしたら子供たち、孫たちが切るかもしれない。そうやってずっと繋がってきてる。そのスケール感にロマンを感じるんです」
「山って放っておいたらどんどん荒れていくんですよ。だから手入れする。
間伐をすることで地面に光が当たり、下草が生える。
下草が生えると山崩れしない地盤が出来るし、草があるから虫が来て、その虫を食べる生き物が集まって・・・そうして山が循環していくんです。」
木々や草花、生き物たちが生き生きと暮らす健康な山。
美味しい水や自然の恵みの恩恵を受けられる背景には、山師の存在が大きい。
「5年たってようやく作業が出来るようになる。10年たってようやくどこを間伐するか、どこに木を植えるのかある程度判断出来るようになるんです。」
「ただ、杉は植えてから育つまで50年かかる。自分の判断が本当に良かったのかどうか、
自分の生きている時に答えが出ないかもしれない。短期目標で、50年なんです(笑)」
山師の仕事は、想像をはるかに超えるほど、壮大で格好いい。
◆100年後の未来も、続いていくように
そもそも原木しいたけはどのように育てるのだろうか。
「切ってきた木を、今度は1メートルくらいの長さに切る。そこにドリルで穴をあけて菌を打ち込んでいきます。」
「いかにしいたけ菌が生きやすいか、を考えて栽培します。
涼しくしたり、あたたかくしたり。木の位置を変えたり、組み方を変えたりして調節しています。この手間暇が美味しさに繋がる。ちなみに全部、手作業です。」
そう、原木しいたけの栽培は全てが手作業。
1メートルに切るとは言え、重いものはなんと20キロ~40キロ!
運ぶこと以前に持ち上げるだけでも大変な作業なのだ。
筆者が持ち上げようともびくともしない木を、ひょいっと持ち上げてしまう今西さん。
力仕事で自然に出来上がった筋肉に、思わずうっとり。
「菌を植えてから収穫できるようになるまで2年。そもそも原木しいたけの木は15年くらいたたないと使えない。つまり、収入を得るまで時間がかかるんです。だから新規就農しづらいんですよね。生産者も少ない。このままだとどんどんいなくなってしまう。」
「そもそも林業というものが分かりづらいと思うんですよ。成果も見えづらい。
だからこそ、山師に興味をもってもらうための教育が必要。受け皿も環境作りも必要なんです。」
だからこそ今西さんは、自身のブログで“山師”としての情報を積極的に発信している。
山を、自然の恵みを、地域そのものを次世代に繋ぐため、今西さんの歩みは止まることはない。
◆ファン作りではなく、身内作り
渡川の原木しいたけのことをもっと伝えたい。
そんな想いで去年から始めたこと、それが【原木しいたけオーナー制度】である。
「物が溢れている時代で、インターネットで何でも買えるじゃないですか。そんな中でただ単純に物を売ってもしょうがないな、って思ったんです。」
「アナログ回帰、というか。もっと“不便”なコミュニケーションを大事にしていかないと次に続かないのかなって。うちで買う意味をお客さんに見出してもらわないとなって」
――――――「不便」なコミュニケーション??
「年に一度、美味しいしいたけを届けるのはもちろんのこと、
その間に数回、オーナー向けのイベントを開催しているんです。実際に渡川に来てもらって色々な体験をしてもらいたくて。」
「実際に来て、作業してもらう。これってすごく大事なことなんです。
どんな環境でどんなことを経てしいたけが育つのか。体験すると皆さん意識が変わるんです。“だから原木しいたけって貴重なんだ”って。」
そうしたイベントの中でも、今西さんはコミュニケーションを大切にする。
「ファン作りではなくて、どれだけ身内作りが出来るかって思ってるんですよ。
ファンは離れることがあるかもしれないけど、身内は離れない。そんな絆を作っていきたい」
◆渡川にしか語れないことが、ある。
原木オーナー制度にイベントの開催、
さらに7月には宮崎市内に山と街を繋ぐコワーキングカフェをオープンさせるなど
精力的に活動を続ける今西さん。
「渡川地区は今、人口が350人くらいなんです。これ以上減ると地域のコミュニティーを維持することが難しくなる。移住出来る環境作りも必要だし、若い人たちが帰ってくるきっかけ作りもしていきたい。地域のためなら何でもやります!」
「渡川ってすっごく可能性のあるところなんですよ。原木しいたけはもちろん、お米も美味しい。魅力がたくさんあるところなんです。で、渡川を離れた時に気付いたことがあって。同級生が6人しかいなかったこと。プールの代わりに川で泳いでたこと。こんな経験、僕しかなかったんです。自分にしか語れないエピソードがこんなにもあるんだって。」
知らないうちに渡川から受け取っていた、たくさんの宝物。
「もっと、もっと、渡川にしか出来ないことがある。」
キラキラした今西さんの笑顔が、ひと際輝いた瞬間だった。
☆原木しいたけオーナー制度はこちら!
☆山師のあんな話やこんな話はこちら!
Blog「林業ボブマーリー」
次回の農業男子は、元陸上自衛隊のイケメン農家!浜松で一人、黙々と野菜と向き合う農業男子の“すごすぎるこだわり”とは?!
お楽しみに~♪
(取材・撮影・文・イラスト 名越涼子)
名越涼子(なごし・りょうこ)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。