不可能と言われる無農薬のりんご作りに成功!
農業の哲学はボブ・マーリーから学んだ?!
”山形のレゲエ農家”は何もかもLOVE&PEACEだった!
まじりっけのない空気を身体中い~~っぱい吸い込んで朝がスタート。
BGMは小鳥のさえずり。目の前にはりんごの木。真っ赤に熟したりんごの甘い香りを爽やかな風が運んでくる・・・
な~んて夢のような1日の始まりが・・・あるのですよ!!!!!↓
なんと、このりんご。不可能とも言われている無農薬!!
中はこれでもか!と溢れんばかりの蜜↓
果実そのものが持つ本来のスッキリした甘さと美味しさ。
無農薬で育った作物って「身体にスッと入ってくる」感覚があるのだけどこのりんごもしかり。いやはや無農薬のりんごだなんて「奇跡のりんご」の木村秋則さんしか聞いたことないぞ・・一体、このりんごを作った農業男子って?!
■農業もLOVE&PEACEだ。
赤・黄色・緑に染まった鮮やかなミニトラクター。
レゲエのシンボル「ラスタカラー」と呼ばれる配色だ。
「こんにちは」
レゲエミュージシャンのようないでたちで現れた農業男子・植松真二さん。
部屋の中はレゲエの神様と言われるボブ・マーリーでいっぱいだ。
―――レゲエ一色・・!ミュージシャンを取材しに来た気分です(笑)
「中学生の時、みんながミスチルを聴いている隣でボブ・マーリーに夢中になっていました(笑)父親が何かのCDと間違えて買ってきて。で、たまたま英語の授業で歌詞を和訳した時にこれすごいなって。中学生ながら”ONE LOVE”っていう言葉にしびれたんです」
ONE LOVE・・・本当の愛、家族。すべてを愛し尊重すること。
好奇心の赴くままにレゲエの歴史・精神を片っ端から学んだ。
「LOVE&PEACEっていう言葉ありますよね。争わないことが勝つことっていうレゲエの精神です。戦争や差別を無くすために歌で世界を変えようって何気なく始めたことかもしれない。でもそれが今や世界中に広まっている。これってすごいことじゃないですか」
不可能を可能にしていく力。
植松さんが難しいとされている減農薬・無農薬での果物作りに挑戦し続けるのは、根底にこうしたレゲエの精神が息づいているからだ。
「自分が頑張ることをやめたら誰もやらない。だからやるんです」
今回も間違いなく面白い取材になりそうだ。
■新規就農はベンツより高い。
今年で就農6年目になる植松さん。
33歳で新規就農し「株式会社松栗」を設立。
山形を代表するサクランボや桃、ラ・フランスなどを減農薬・無農薬で育てている。
「実家が農家でゆくゆくは就農しようって思っていて。でも農家になる前に社会に出て色んなことを経験したくて飲食、車、建築・・葬儀屋で働いたこともありました。本当、バラエティ豊かでしょ(笑)」
昼夜問わずに働き、10年かけて起業資金を貯めた。
「最初から一人で法人化してやろうって決めてました。父親の苦労も自分で経験しないと分からないだろうなって。やるからには後に引けない形でやりたかったので、あえて大変な道を選びました」
ゼロから始めて分かったことがある。
「いや~農家ってすごいなって思いました。道具を揃えるのにこんなにお金かかるんだなって。ベンツより高いんだなって(笑)」
べ、べ、ベンツより高い・・・!
「耕作放棄地を開墾して土づくりして苗を植えて・・・貯金は秒殺でなくなりました(笑)でも10年間必死に働いたお金で投資したので本当に大切に使おうって思いました」
「果物ってすぐに実にならない。つまり収入にならないんです。例えばサクランボは苗木から始めたらどんなに早くても6年かかる。それに果樹の場合、病気に感染したら切り落とすしかないですしね。まともな畑が借りられたら別ですけど」
――――まともな畑??
「新規就農者にはなかなか条件のいい畑がこないんです。耕作放棄地は片っ端から預けられましたけど(笑)市役所に何度も通って、若手にこそ収入になる畑をまわさなかったら誰も続かないんじゃないんですかって。補助金だって経費にもならないくらいだから」
農林水産省によると、新規就農者が一番苦労するのが“農地の確保”であり、5年以内に離農してしまうのは“生活が安定しないから”という理由である。想いがある、だけでは解決出来ない課題が山積している。
植松さんは他の農家の手伝いをしながらなんとか農業を続けてきた。
そこまでして厳しい道を選んだのには理由がある。
「実家で始めたらこんなに苦労しなかったかもしれない。でも楽な道行ったってなにも楽しくない。最終的に見える景色が全然違うと思うんですよね。登り切ったら必ず何か見える。そう信じています」
そんな植松さんの姿を見て、周囲の対応も変わってきた。
「さくらんぼの木って100年生きるんですけど、後継者がいなくなると伐採される。何十年も生きてきた歴史がたった1日で終わっちゃうんです。そうした後継者のいない畑をバトンタッチされるようになってきて」
地元の人からの信頼を得られた証だ。
「収穫量300キロのはずが1キロしかない、とか本当に色々なことがあったけど(笑)あの木が収穫出来るようになるまで頑張ろう、頑張ろうって続けてきて今がある。苗木を植えたらもうワクワクしちゃってるんだよね」
自らの手で作り上げたものだからこそ、努力が花開いた時の喜びは格別極まりない。
果物ひとつひとつは、植松さんの魂そのものだ。
■《ONE LOVE》
植松さんが心をこめて作った減農薬のラ・フランス。
果肉がとってもやわらかく、口に入れた瞬間の華やかな香りとうっとりするほどの甘さは一瞬にしてとりこになってしまうほどの美味しさだ。
「お客さんから”ブドウ作ってないの?”って言われて。”あなたが作ったものなら食べたい”って嬉しい言葉ですよね。それでブドウも作り始めて」
確かに、ひとつ食べると他も食べたくなる。好奇心が刺激される。
それほど植松さんの作る果物は衝撃的な美味さなのだ。
「新規就農者の中でもこんなに失敗したことある人いないってくらい失敗しましたから(笑)どんなにコストがかかってもいい。とにかく品質を追及してきたんです」
「同じものでも自分が作るとこうなるよって、誰にも作れないものを作りたい。美味しいものってみんな笑顔になりますよね。食べた人も贈った人も笑顔になれる、そんな果物を作っていきたい」
そんな植松さんの想いに共感し、今では会社も7人にまで増えた。
「農業は人生の全てです」
農業とともに生きる。喜びも悲しみも失敗も、これまでの全てと寄り添って生きていく。
そんな植松さんの生き様こそが、ONE LOVEなのだ。
参考:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/h26_h/trend/part1/chap2/c2_1_03.html
☆植松さんの情報はこちらをチェック☆
http://www.matsukuri.jp/
次回は日本のマルシェ文化の先駆け《銀座農園》が登場!
農業ベンチャーである彼らの新たな取り組みは漢方×野菜?!!
名越涼子の農業リポートをお届けします!
(取材・文・撮影・イラスト 名越涼子)
名越涼子(なごし・りょうこ)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。