《人生は、オートクチュール》
ファッションデザイナーから農業男子へ転身したイケメン農家。自分の人生を着実に紡いでいく、その強い意志に迫る!
自分が納得できるまで思い切りやりきることって、本当に大切だと思う。
やりきったから分かること。
やりきったから手に入れられるもの。
やりきった人は決めた人。
それって、人生において何にも代えがたい自分の財産だ。
「農家辛い辛いってみんな言うけど、それほど辛くない。やればやるだけ結果がついてくるから」
今回登場するのは“それ”を手にした農業男子。
すっきりとした清々しい空気をまとった彼に、直撃した。
◆実は農家になる前は○○でした。
「これからは“見せる農業”をしていかないといけないと思うんですよね」
まっすぐな瞳で話し出した、農業男子・中野恵介さん。
「自分たちの価値と自分たちのつくるものの価値を上げて、ちゃんと伝えたいんです。なかのふぁ~むの見せ方をしっかり考えてブランディングしていきたい」
北海道滝川市。
自然豊かなこの大地で農家の息子として生まれた中野さん。
農家になって、今年で3年目だ。
「最初は土の感じとか、緑の違いとか畑を見てても全然分からなかったんですけど、ようやく理解出来るようになってきました。日々成長、って感じです」
すらりと伸びた手足に、ウェーブのかかったヘアースタイル。
中野さんが笑うと、心地よい風が吹き込んでくる気がする。
ふぁさ~・・・そよそよ・・・
うーん。さ・わ・や・か。
調子にのって一緒に写り込んでみる↓
さ、さ、さわやかさの真骨頂!!!!
( ゚Д゚)
しかし。しかしですよ。
作業着をお洒落に着こなす姿や話している時の雰囲気からは正直、“土っぽさ”が感じられないのだ。
それもそのはず。
だって中野さん。農業とは全く違う“畑”にいたのだから。
「実家に戻る前は東京に10年くらい住んでいて。デザインから裁縫、販売まで手掛けるオーダーメードのスタイルでファッションブランドを展開していたんです」
そう、中野さんは元々オートクチュールのファッションデザイナーだった。
「食べることよりも服の方が大事で。ボタンを大量に買って一週間食パン一斤、ってこともありましたよ(笑)」
作品展を開くほどの洋服好き。
ジャケット作りに一ヶ月かけたこともある。
「自分に出来ること、自分の強みがオートクチュールだったんです。全部自分で責任が持てるし、ちゃんとやった分しっかり伝えられる。一点物の良さをのばそうって」
ミシンを踏むのが楽しくて仕方がない日々。
ブランドを立ち上げて2年目には、目標だった東京コレクションにも出た。
「滝川に戻ってこよう、なんて考えてなかったですね」
それほどまで情熱を注いだファッションデザイナーをスパッとやめて農業男子に転身した中野さん。
一体、なぜ???
◆だって、やりきったから。
“ファッションで食べていく”
そう決断した時、ご両親の反応はどうだったのだろうか。
「自分のことをあまり話さない子どもだったんです。そんな僕が初めて自分からやりたい!って言ったことだったので全く反対されなかったんです」
「昔はコミュニケーションをとるのが苦手で。その点、洋服は言わずして自分のことを伝えられる。これが自分ですよって」
自らを表現する最高のツールとして、中野さんは一着一着に魂を込めていた。
話を聞けば聞くほど、頭の中がハテナでいっぱいになってくる。
一体、なぜやめたのか?
「う~ん・・厳密にいうと、わからないんですよね(笑)」
お?おおお??わからない、とは??
「当時、夢は叶っていたんです。大好きな洋服が作れる。毎日ミシンが踏める。待ってくれているお客さんがいる。満足してたんですよね」
「でも30歳を超えてこれからどう生きようか考えた時に、一瞬“戻ろうかな”って思ったことがあって。そうしたらそんな気持ちでミシンを踏むのがお客さんに申し訳なくなってきたんです。心にスキが出来てる自分が嫌になって」
いい加減な気持ちで向き合いたくない。
職人気質な中野さんの性格がよく伝わってくる。
「だったらもうスパッとやめようと」
「とはいえ、やめるって言うと涙が出てきちゃって。でも自分に嘘はつきたくない。
自分に教え込むのが大変でしたね」
まだ出来る。
でも、気持ちが100%じゃない。
だったらやらない方がいい。
ものすごくシンプルで、何よりも厳しい決断だ。
「最後の展示会の時に、これ以上ミシン踏みたくないってくらいやれた。やりきったんです。最終日だけ寂しかったけど、あとは感謝の気持ちしかありません」
「ミシンはもう踏んでない。戻りたいとも思わない。ファッションはファッション、農業は農業。だってもう、本当にやりきったから(笑)」
そう話して笑う中野さんを見て、気づいたことがある。
中野さんからにじみ出るまじりっけのないシンプルな空気は
“やりきった人”だけが持てるもの、そのものなのだと。
◆究極言うと、何だっていい。
「去年から“野菜の並ばない直売所”というタイトルをつけて、もぎとり直売を始めたんです。ハサミとカゴを持ってもらって実際に畑に入ってもらって収穫してもらう。お客さんと話しながら出来るし、畑にとっても野菜にとってもこれが一番いい」
「大切にしているのは、農家のありのままの姿を見せること。ちゃんと作ってるから見せられます」
“農家”の伝え方も、まっすぐだ。
「あとね、滝川ってえごまの作付面積が去年日本一だったんですよ。でもこれまでは“ただ作ってる”だけだった。これじゃもったいないって2年前から同世代の農家と協力してえごま油を作ってるんです。今年、試験的に出来上がるので楽しみです」
自分に出来る精一杯をやりきっていく。
ファッションでも農業でも中野さんのそのスタンスは変わらない。
最後に中野さんが言った。
「究極、何をやっても良かったと思います。人にどう見られるかなんて、気にしてない(笑)」
これって、すごい一言だと思う。
そして、すごく素敵な言葉だなって思った。
自分の気持ちに正直に生きる。
自分の人生を、自分でつくっていく。
当たり前のことのはずだけど、それが実践出来てる人ってどれほどいるのだろう?
シンプルに生きるためのヒントを、中野さんからたくさん教えてもらった。
☆なかのふぁ~むの情報はこちらをチェックhttp://keisukenakano.com/
次回は全身いちご色の“いちご親父”が登場!
「本気は伝わる」そんな勇気エピソードに胸キュン!お楽しみに~♪
(取材・文・撮影・イラスト 名越涼子)
名越涼子(なごし・りょうこ)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。