「仕事って辛いものだよね?」
その考えが根底から変わった、農業との出会い。
“この道で生きていく”仕事が生きがいとなった農業男子が登場!

 

 

あなたに、問いたい。

あなたは、今、何のために仕事をしているのだろうか。

 

生活を守るためなのか。
お金を稼ぐためなのか。
それとも自分の可能性を追求するためなのか。

 

「仕事って給料をもらうためにあると思ってて。給料をもらうためには命を削って働かなきゃいけないんじゃないかってずっと思ってたんです」

 

そう話し出した、農業男子。

 

「新規就農した友達に会った時に、すっごいキラキラしてたんですよ。仕事が生きがいになってたんです。農業のことを本当に楽しそうに話してて」

 

≪仕事って楽しんでいいんだ≫

 

本当は当たり前かもしれないその気持ちは、どこで変わってしまうのだろう?

“仕事は苦しい”って誰が決めたのだろう?

 

仕事を楽しむ。

仕事が生きがいになる。

 

その農業男子は、自らの手でその道を掴んだ。

 

 

 

 

◆“生きてる!”って実感してますか?


 

息をするのが気持ちいいほど澄んだ空気。
北海道・洞爺湖町。
雨上がりの空に綺麗な虹が出て、ここに来たことを祝福してくれているようだった。

 

 

この美しい地で新規就農した農業男子、北風淳さん。
札幌生まれ、札幌育ち。
農業には縁もゆかりも全くなかった。

 

「札幌の電車の中って目が死んでる人たちばかりで、何のために生きてるのかなって前々から感じてたんです。でね、ある時高校の親友が農業やるって急に洞爺湖に引っ越して。会いに行ったら農業のことを楽しそうに語るんですよ。まぶしかったですね~」

 

 

親友に刺激を受けた北風さん。
“自分もやってみたい”
すぐさま農業を学ぶべく、洞爺湖町へ移住した。

 

「ある農家さんのもとで働かせてもらっていたんですけど初日に“あ。ここに永住しよう”って決めちゃいました(笑)ハウスでの作業が楽しかったんですよね~」

 

 

「風と鳥、虫の声に囲まれながら朝陽から夕陽まで一日の始まりと終わりを味わえるって最高です!人間らしい当たり前の生活が出来る贅沢さ、なんですかね」

 

札幌と洞爺湖町の生活の違いはそれだけではない。

 

「札幌で一人暮らししてた時は近所づきあいが全く無くて。隣の家に挨拶に行っても出てこない。洞爺湖町はなんていうか丸見えです(笑)何かあったら駆けつけてくれる、自然に助け合えるあたたかさを実感しています」

 

 

誰に頼まれたわけでもないのにお裾分けし合う文化。
その時に交わされる何気ないコミュニケーション。

 

「そういうの、憧れてたんです。これが人付き合いというものなんだなって感じます」

 

北風さんにとっては、そのどの場面もとっても貴重で大切なのだ。

 

これは、ただの経営継承じゃないんだ


 

2015年、第三者経営継承によって北風農園が誕生した。

 

第三者経営継承とは後継者のいない農家の経営資産を引き継ぎ、就農すること。

土地や機械などから販路・技術までまるごと継承できるのが特徴だ。

 

「”本当は続けたいのに離農するしかない”っていう農家さんの想いを受け継ぎたいなって思っていたんです。そうしたらここの農場を持っていた農家さんが声をかけてくださって」

 

2013年からこの農場に入り、畑の作付け計画から経営のことまで幅広く教えてもらってきた。

 

ただ、第三者経営継承ってマッチングが難しいって言われていて。特に僕のような野菜農家は北海道内でも成功事例が少ないんです」

 

 

「畜産だと年間の維持費や売上が牛の数である程度計算できる。なので新規就農者にも分かりやすいんですよね。買い取った施設のローンの返済も目途が立つ。でも、野菜の場合は市況も天候も安定しない。だから難しい」

 

様々な課題がある中で何よりも大事なのが、経営継承する農家との“人間関係”だと北風さんは話す。

 

「新規就農者は“こういう農業がしたい”ってこだわりを持っている人が多い。だから親方と意見が合わなくて喧嘩別れするケースがあるんです。うちはお互いにいい意味で適当だったのが良かったみたいです(笑)」

 

家族経営の難しさとは違う、第三者経営継承。

「絶対にここじゃなければいけない」が無い分、

継続していくことはお互いの理解とコミュニケーションが必要だ。

 

「本当はここ、北風農園じゃなくて先代の伊藤農場のままで継ぎたかったんです。
だから“4代目伊藤農場でやらせてください”ってお願いしました。そうしたら“気持ちは嬉しいけど、もう北風くんの農園なんだから”って先代が言ってくれて」

 

 

「経営資源だけじゃない。何代にも渡って続いてきた、その気持ちも受け継ぐことを含めてが第三者経営継承なんです

 

そこまで繋いできてくれた人たちの気持ちを未来へ繋いでいく。

 

「親方とでなければ第三者経営継承がこんなに上手くいかなかったと思うんです。器の大きい親方とご縁がもらえて、本当に幸せだと思います。」

 

北風農園に流れる優しくてあたたかい空気の意味が、よく分かった気がした。

 

◆農業を通して、自分に出来ること


 

札幌にいた時はスーパーで買う野菜の生産者の顔を思い浮かべたこともなかったという北風さん。だからこそ思うことがあると言う。

 

「日本の農業を守っていきたい。新規就農者を含めて農業に携わる人が増えれば、消費者に対する影響力も大きくなると思うんです。だから、農業者を増やしたい。」

 

 

「新規就農者ってどうしても条件の悪いところで始めざるをえないケースが多い。そんな理由もあって合わなくて辞めちゃうんです。その点、第三者経営継承はいい畑に出会えるチャンスがある」

 

だから第三者経営継承が必要なんだと、北風さんの言葉に熱がこもる。

 

「ここもどんどん大きくしていって、農業したいっていう人が独立する時に畑を分け与えられるようにしたい。先代がそうしてくれたように、僕も誰かに渡してあげたい

 

農業で見つけた、自分の本当の役割。

 

 

“生きがい”に巡り合えた北風さん。
きっと当初自身が憧れていた姿を超えるほど、キラキラと輝いているはずだ。

 

 

 

☆北風農園はこちらをチェック!☆
https://www.facebook.com/toya.itofarm/

 

次回はファッションデザイナーから北海道の農家へ!
“洋服も農業もオートクチュール”
長身・モデル農業男子が登場!お楽しみに~♪

 

 

(取材・文・撮影・イラスト 名越涼子)

名越涼子(なごし・りょうこ)

フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。