漁船に乗るか、諦めるか?!
目指すは【ミニトマトの巨匠】 農業が人生を変えた、新規就農の農業男子が登場!

 

その農業男子の就農への道のりはこんな衝撃的な一言から始まった。

 

「若いんだからさ、マグロ漁船に乗って稼いできたら?」

 

役所で思わず立ち尽くす。

 

 

当時、貯金は10万円。
最低でも300万円を持っていないと就農出来ないと言われた。

 

「そうか、新規就農って厳しいなって。でも諦めたくなくて色々なところに掛け合いました」

 

運命の出会いは北海道壮瞥町にあった。
町独自の新規就農者に対する補助金制度が丁度始まるタイミングだった。

 

「若くてやる気あるし、いいんじゃないかって。ぜひ第1号になってくださいって言っていただいたんです」

 

そして1年の修行期間を経て農園をオープンさせた。

 

 

「自分が農業で変われたから、それを伝えたい」

 

人生が大きく好転した農業との出会い。

彼をそこまで夢中にさせた農業って、一体何なのか。

新たな農業男子との出会いに、わくわくしてきた。

 

 

 

■無気力だった僕が初めて目覚めたこと

 

「はやく【達人】になりたい。農作物は基本的に1年に1回しか収穫出来ないから。

40年やっても40回しか作れないんです。だから早く始めたかったんです」

 

楽しそうに生き生きと話すのは洞爺湖町出身の農業男子・木村大作さん。

 

“農業が好きでたまらない”そんな思いが言葉の端々から伝わってくる。

 

「中学の途中までは趣味も特技も全く何も無くて・・・本当にやる気ない生活送ってましたね(笑)」

 

今の木村さんからは想像もつかない“無気力ぶり”だったという。

 

 

「そんな時にたまたま園芸科の高校の体験学習に行ったんです。りんごを収獲して食べたりフラワーアレンジメントをしたりして。こんな楽しい高校あるんだ!って思って。ここなら行きたいと、進学を決めました」

 

勉強は大の苦手だった。でも、初めて学びたいと思った。それが、農業だった。

 

「大学でもさらに農業にのめり込んで。種まき、土の厚さの違いだけでも発芽率が変わる。そんな細かいところも面白くて。でも、農業が一番面白いと思ったのは子どもたちを見ててなんです」

 

 

「大学で農業高校の教員の資格を取ったんです。で、その活動の一環で小学生に田植えを教えたり一緒に畑で作業したりすることがあって。みんな土を触ると生き生きしだすんですよね~。田植え終わった後の方がエネルギッシュになってたり。あ、自分もこんな感覚だったなって」

 

≪農業を通じて人を育てるって面白い≫

 

自分が変われたからこそ、心からそう感じた。

 

「よし、畑の先生になろうって、その時決めました」

 

 

その後教員採用試験を受け、順調に教師への道を歩み出す。

しかし、一次試験に合格した後、ふと頭にこんな考えがよぎった。

 

「でも、待てよと。農業は深すぎる。教壇に立つより先に農業をしないと自分に教えられるものがないんじゃないか。農業をやってみてから先生になったほうがいいんじゃないかなって思って」

 

そう感じた木村さん。

なんと採用試験を途中で辞退し、そのまま農業法人へ就職してしまった。

 

 

自分の直感を信じて行動する。
当たり前のようで、なかなか出来ないことだ。

 

■え?マグロ漁船、乗っちゃう?

 

「300万はないと就農できないよ。マグロ漁船乗って稼いできたら?」

 

農業法人での修行を経ていよいよ新規就農に向けて動き出した木村さんに立ちはだかったのはお金の壁だった。

 

「うちはサラリーマン家庭。もともと農家じゃないから耕作地もない。新規就農って厳しいんだなって」

 

そうして木村さんの就農への道が開けたのは冒頭の通り、壮瞥町との出会い。

マグロ漁船に乗ることも無く(笑)、木村大作農園は2009年に誕生した。

 

 

昭和新山と有珠山を臨む最高のロケーション。

ここで9種類のミニトマトを育てている。

 

農業やるなら“あの人は本物だ”って言われる存在になりたい。そう考えた時に、腕の差が出るのがミニトマトだと思ったんです。食べてもらったら、僕がどんな情熱で作ってるか分かってもらえると思います」

 

木村さんの農園のミニトマトたちはそんな熱い想いを一心に受けて

どれもすくすく美味しそうに育っている。

 

 

「農作物はそんな簡単に答えを出してくれない。どんなに準備しても思い通りにならないのがいいんですよね。“次こそは!”って何度も挑戦したくなる。害虫とか天候に泣かされることもあるけど不思議と“もうだめだ”って思わないんです」

 

これまで続けられてきたものは何もなかった。

でも農業だけは、違う。

 

「ただ1つ後悔していることといえば、なんでもっと算数やらなかったのかなって(笑)それだけです」

 

苦手なものさえ克服できる。

農業にはそんな力があるようだ。

 

■僕は、達人になる

 

「北海道と言えば大作農園っていわれるくらい成功したい!」

 

達人を目指す木村さんがそう話すのには理由がある。

 

「就農して5年目くらいからですかね、自分が納得出来るものが出来てきたのは。とはいえ、山で言えば三合目くらいです。就労して2~3年は本当に大変でした。」

 

 

「想像していたよりもはるかに難しいし、うまく作れない。収入も少ないからバイトにも行きましたし。虫の大発生、台風でハウスが飛ばされる・・・色々あって情熱だけではどうにもならないこともありましたけど、周りの人たちに本当に助けてもらったんです」

 

一人じゃどうしようもならなかった時に、手を差し伸べてくれた人がいる。

 

「すんなり僕を受け入れてくれた壮瞥町があって・・・そして助けてくれた人たちがいて今の僕がある。だからこそ後継者を育てることで恩返ししていきたいって思うんです」

 

新規就農はたやすいことではない。

それでもこの道を選んだことに一点の曇りもない。

 

 

「農業って職業選択のひとつにまだ入ってないと思うんです。農業は継ぐものって思っている人もまだまだ多いんじゃないかな。だから僕を見てやってみたいって思ってもらえるような存在になりたいんです。そういう人達の受け皿も、整えていきたい」

 

 

諦めなかった人だけが得られる喜び。

苦労したからこそ感じるありがたさ。
そんな木村さんの生き方そのものが”畑の先生”なのだ。

 

 

 

☆木村大作農園の情報がここでチェック☆

・壮瞥町の観光情報サイト
https://sobetsu-kanko.com/activity/petittomato

・木村さんのブログ
http://kimusaku.blog39.fc2.com/

 

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(取材・文・撮影・イラスト 名越涼子)

名越涼子(なごし・りょうこ)

フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。