「あ、これ、好きかも」
直感を信じて農業への一歩を踏み出した農業男子。
“人が人に戻れる場所”木更津のイケメン農業男子が語る未来のカタチとは?
食べることをちゃんと味わえてる人ってどれくらいいるのだろう?
食べることは、生きること。
それって当たり前のことだけど、
この目まぐるしい情報の嵐の中にいる私たちが食べているのは
もしかしたら食べ物じゃなくて、《情報》なのかもしれない。
【食べることと、生きることは繋がっている】
かつては当たり前、今は実感することが難しいその世界を実現しようと始まった農場が、千葉県は木更津にある。
それが音楽プロデューサー・小林武史率いるap bankが母体となった、《株式会社耕す》である。
耕す木更津農場が始まって今年で8年。
今回登場するのは
30年間耕作放棄地だったこの地を開墾し、農場長として守り続ける農業男子。
「持続可能って本当に大事。ここは元々牧場だったけど閉鎖して人の手が入らなくなってしまったんです。僕らが開墾した後でまた荒らしてはいけない。責任を持ってバトンを渡していかないといけないと思うんです」
始めることも、終わらせることもエネルギーがいるけど続けることが実は一番パワーがいることだ。
サラリーマン家庭に生まれ育った。元々農業とは全く縁はない。
そんな農業男子の物語に、迫った。
■子どもの頃の“好き”を思い出せ
「晴れてる!気持ちいい!そんなシンプルで当たり前のことを感じられる、人間らしい生き方。人が動物みたいに生きられることを感じるきっかけになったらいいなって思ってるんです」
爽やかな笑顔を見せて話し始めた農業男子・伊藤雅史さん。
農場長として30haの大きな敷地を任されている。
「資本主義、大量生産ってみんな疲れてきてると思うんです。実際に僕の仲間でも仕事に疲れた~って言って結構みんなここに来てくれます。でも最後は笑顔で帰っていきますよ」
東京からフラッとお気に入りのご飯屋さんに行く感覚・・
そんな気軽な距離感も木更津ならではの立地だ。
「夢中になる、風を感じる。地面にたっている感覚を味わう・・・それって子どもの頃の“好き”を思い出す時間。最近は無邪気にはしゃげる場所、少なくなってきてますからね」
「あとね、農業ってスポーツと同じだと思うんです」
もともとサッカー少年だった伊藤さん。
小学校から大学までサッカー漬けの日々を送ってきた。
「身体以上に頭を使うし、戦術もあって何よりチームプレー。一人で行き詰まってもみんなと一緒だと創造力も突破力も全然違う。それぞれが動きながらゴールに向かっていく。バラバラに見えて、みんな繋がっているんです」
サッカーをしてきたからこそ《チームプレー》の強みが分かる。
「それぞれの特性が生きてピタッとはまった時はもう最高です!だから、このチームを強くしていきたいんです」
まなざしにグッと力が入った。
■社会人って、楽しいの?
「就職活動、してなかったんです。さて、どうしようかなって悩んでましたね。社会人になった人を見てると“こんなにつまんないのか”って感じてましたし、大学のように社会人になってからワクワク出来るのかなって」
そう話す伊藤さんに転機が訪れたのは、大学4年生の時だ。
「食をテーマにしたゼミの活動を見学したことがあって。そこである農家さんのお手伝いをしたんです。そうしたら楽しくて楽しくて。心のモヤモヤが晴れて、あ、これ好き!って思っちゃったんです(笑)直感でも、これはやるべきことだなって感じましたね」
そしてもう一つ、伊藤さんの運命を変える出会いがあった。
ap bankが展開するレストラン《クルック》のシェフだ。
「飲食業って大変そう、働いている人可哀そうだな~って思ってたんですけど、そこでアルバイトをして考えが変わりました。シェフが生き生きしていて本当に楽しそうで。そんな姿勢が格好良かったんですよね」
そこで学んだことはたくさんある。
野菜のこと。食のこと。農家さんのこと。
そうした時間を過ごしているうちに、伊藤さんの心の中にある思いが沸き起こってきた。
「素敵な農家さんの野菜をレストランで届けることでサポート出来ればいいなって思ってたんです。それをシェフに相談したら“素敵な農家のサポートじゃなくて、お前が素敵な農家になっちゃえよ”って。あ、そうか、自分がなっちゃえばいいのかって(笑)そこでパッと道が拓けました」
この一言が大きな後押しとなって、伊藤さんは農業の世界へと一歩足を踏み入れることになる。
一年の修行を経て、《耕す木更津農場》の立ち上げから携わり、2年前に農場長を任された。
「ガッチガチに農業を伝えるんじゃなくて、もっとポップに伝えたい。耕す木更津農場なら、それが出来る」
農業の楽しさを知ったからこその、一言だ。
■農業は、掛け算だ
「自然は大事。人も大事。そこでどんな人が働いていて、どんな未来を描いていくのか。やってる人のエネルギーって野菜にも伝わるから、どんなことをメッセージにするのか、とことん話し合いました」
《生きることと食べることは繋がっている》
その想いが体感できるような場所作りを始めておよそ10年。
「将来的にはレストランやミニライブが出来るような広場も作りたいし、アート・音楽・食、衣食住すべてを体感できる場所にしたいなって思います。ここなら農業に興味が無かったとしても、音楽に興味がある人は来る。その広がりに可能性を感じています。」
「サッカーも農業も掛け算のチームプレーなんです。土の性質、野菜の生育ステージ、虫とか天気とか色々なものが掛け算して出来上がる。」
掛け算だからこそ、何倍も大きくなれる。
「でも、いつゼロがくるか分からない。台風とかね。100出来ていたとしてもゼロが来たら何もなくなってしまう。だからこそ1を保つことが大事。いかに長く続けていけるか、そんな視点でいつも考えています」
思いきりはしゃぐ。笑う。味わう。楽しむ。
日々に追われて忘れてしまいそうになる《当たり前》の感覚は自分の《好き》を思い出せる大切な感覚。
そんなことを感じられるのは農の魅力であり、
そして伊藤さんはそれを伝えるキーマンであることは、間違いない。
☆《株式会社耕す》についてはこちらをチェック☆http://www.tagayasu.co.jp/index.php
次回は
「マグロ漁船で稼いで来たら?」どん底からの新規就農!トマトの巨匠を目指す若き農業男子が登場!お楽しみに~♪
(取材・文・撮影・イラスト 名越涼子)
名越涼子(なごし・りょうこ)
フリーアナウンサー。香港出身。
福井、愛知のテレビ局のアナウンサーを経て独立。
幼い頃見た田んぼの美しさに感動し“農”に興味を持ち始める。
農作業着ファッションショーや農業団体の発信媒体を手掛けるなど
独自の切り口で“農”を発信。
他、メディア出演や講師業、コラム執筆など多方面で精力的に活動中。