ライター:尾形 希莉子



「昨日はメロンをとって食べましたよ。他にもトマトやミニスイカなど、たくさん育てています。」そう楽しそうに話すのは、プランティオ株式会社の共同創業者/CEOである芹澤孝悦さん。「みんなで楽しく育てるカルチャーをつくる」を会社のミッションに掲げ、次世代プランターとなる「Smart Planter™」を開発しました。



このプランターにはAIが搭載されており、スマートフォンのアプリで野菜の生育状況を把握することができるようになっています。データを用いて水やりのタイミングなどを教えてくれるため、知識がなくても簡単に野菜を育てることができます。

しかし、目的は野菜を育てることではありません。芹澤さんにはSmart Planter™を通して実現したい日本の姿がありました。それはいったいどのようなものなのか、開発にこめた想いをうかがいました。

現場で感じた、日本の食と農への課題

―まず初めに、Smart Planter™を開発しようと思ったきっかけを教えてください。

祖父が「プランター」という和製英語を発明した人で、それが発端です。もともと家業を継ぐつもりはありませんでしたが、父親が倒れたタイミングで継ぐことを決意しました。

それまでIT企業に勤めていたこともあり、テクノロジーとプランターを掛け合わせて何かできないかと考えたんです。

―プランターは約60年前に誕生したものですよね。芹澤さんは生まれたときから、プランターが身近にあったのでしょうか。

身近といっても、プランターへの思い入れは1mmもありませんでした(笑) 祖父の膝の上に座ってプランターを眺めていた記憶はありますが、虫も苦手でしたし、家中に野菜がありすぎて逆に嫌になっていました。

実は私は家業を継ぐまで、土に触れたことも食に関する興味もなかったんです。

―では、食や農への関心はどのようにして生まれたのですか。

プランティオの事業を立ち上げることを通じ、既存の農業や農に携わる方々と多くコミュニケーションを取りました。
そうしたところ、既存の農業には様々な課題が多く山積している事を知る中で、もしかしたらテクノロジーを使い、本質に戻れば、そららの課題が一気になるなるのでは?と気づき始めました。

人類は常にテクノロジーでその時代時代の課題を解決してきましたので、この閉塞感や、行き詰まり感がある農業界を、もっと別のアプローチで解決出来たらいいなぁと思い、興味を持ち始めました。



―昔の芹澤さんのように、食や農への関心が薄い人はたくさんいると思います。その関心の薄さは、どこから来ていると思われますか。

おそらく高度経済成長期が転換ポイントだったと思います。昔は自給自足の生活が基本でしたが、成長期にはお金を稼ぐために朝から晩まで働かなければならないというマインドに変化し、過度な資本主義社会が生まれました。

そもそもお金はそんなに必要なものなのか、もう一度見直す必要があります。食べ物を自分でつくることができれば、そこまでお金もいらなくなるはずです。

継続的に農に関わってもらうために

―自給自足には憧れがありますが、かつて野菜を育てようとしたらうまくいかず嫌になってしまった記憶があります。そんな人でも、Smart Planter™を使いこなすことはできるでしょうか。

高度な技術が走っているとは気づかないくらい、操作自体は簡単です。プランターが届いたら、電源ボタンを長押ししてください。そうすれば後は、やるべきことを勝手に教えてくれるので、それに従ってお世話をしてください。

ただ、ときにはそれでもうまくいかない場合があるかもしれません。しかし、せっかくやる気になったのに一度の失敗で農から離れてしまうのはもったいないことです。
そこで私たちは継続的に農に関わってもらうため、いくつかの仕掛けを用意しました。まず1つ目に小さな成功体験を積んでもらうこと、そして2つ目に、コミュニティをつくることです。

―まず1つ目の、小さな成功体験について教えてください。

小さくてもいいので成功体験を積んでもらうため、失敗したときのサポートを充実させました。諦めずにリベンジしてもらうための工夫として、失敗したときにタネを一つプレゼントすることにしています。



一度成功したら、楽しいと思うはずなんです。その楽しい思いを積み重ねることは、農の継続性に繋がります。

―そういうサポートがあると、安心して育てられそうです。でも、また同じような失敗を繰り返してしまうような気もします。

Q&Aコーナーで質問すれば、なぜ枯れたのかを教えてもらうことができるようになっています。一部有料にはなりますが、蓄積された野菜の成長過程のデータから原因を特定することもできるんです。

野菜で広がるコミュニティの輪

―では次に、コミュニティについて教えてください。PLANTIOのビジョンとして「みんなで野菜を育てる世界へ」が掲げられていますが、これとも関係があるのでしょうか。

コミュニティは、Smart Planter™で一番のおすすめポイントです。アプリの設計上、1人では育てられないようになっています。1人だとほとんどの人が失敗してしまうんです。みんなで育てることで相互意識が生まれ、野菜を介した自然なコミュニケーションをとることができます。

―ただ野菜を育てるだけでなく、周囲の人と繋がることにも楽しみを見出せそうですね。

コミュニティには組織をまとめて盛り上げる存在が必要ですが、Smart Planter™では野菜がその役割を果たしてくれます。

アプリに「花が咲きました」などの通知が来て、勝手にコミュニティが盛り上がるんです。ここに従来の都市農園とは異なる強みがあります。



―野菜がコミュニティビルダーとしての役割を果たすというのは面白いですね。具体的にどのようなコミュニティが形成されていくのでしょうか。

私の考えるコミュニティの最終構成は、ユーザー(消費者)・飲食店・農家が繋がったものです。農家が入ることで農業指導をしてもらえますし、種を分けてもらうこともできます。

自分の種がどこでどんな人が使っているのかが分かると、農家も嬉しいんですよね。また、飲食店が入ることでそれぞれが育てた野菜を持ち寄ってパーティをすることもできます。

―アプリ上だけでなく、オフラインでのコミュニケーションも想定されているのですか。

オフラインで会うことはとても重要です。収穫祭のようなものをやりたいと思っています。

前に一度開催したことがあるのですが、自分で育てた感想をみなさん熱く語っていてとても盛り上がりましたし、イベントの今後の可能性も感じました。



Smart Planter™が普及した日本の姿

―芹澤さんが思い描く、日本の食と農の未来について教えてください。

かつての日本人はみんなそうであったように、育てることが傍にあるライフスタイルになると思います。

自分で種をまいて育てて収穫する、そんな原始的な生活が、テクノロジーのサポートによって取り戻されるのではないでしょうか。日本人の中に眠っている農耕民族の血を呼び起こしたいです。

―テクノロジーで原始的な生活が取り戻されるというのは面白いですね。

今は大規模農業に支えられていますが、ゆくゆくはマイクロファーミングとバランスよく共存していく世界を目指しています。

それと同時に、自分が食べるものは自分で選択できる世の中にもしたいですね。

食や農へのリテラシーが低い今の状態では、自分で選択することができません。野菜の種や育て方には、たくさんの種類があることを知らない人も多いでしょう。しかし自分で育てるようになれば、リテラシーも高まります。

ただ与えられたものを何も知らない状態で食べるのではなく、自分の意思で選択した方法でつくられた食べ物を食べている世界が理想です。

― 後記 

野菜を育てることが目的ではなく、さらにその先の世界を見据えたSmart Planter™の開発。芹澤さんは「自分の思い描く世界が実現するまで、私は死ねません」と語っていました。

未来の日本は、過度な資本主義社会から脱し、自分たちの食べ物は自分たちでつくるコミュニティで形作られていることでしょう。

「昨日はこんなものを収穫しました」「次はこれを育てる予定です」。こんな会話が行き交う日常が訪れるのも、そう遠くはないかもしれません。